出演 & 火の始末を担当
新名亜子による火起こしの記録
2020年5月中旬。宇宙論☆講座主宰 五十部裕明氏から指示を受けた。
「新成さん、炭火焼肉ミュージカルの炭火の火付けをお願いできますか」
私は重大な役割を与えられたことに高揚した。
このレポをご覧いただく皆様ならばご存知だろう。2020年5月30日に上演された宇宙論☆講座の炭火焼肉ミュージカルは、未曽有の事態を受けて『無観客無配信公演』として行われた。
上演会場は一切公表されず、上演中も人間の観客は一切なし。
台本から引用すると観劇できるのは、太陽と月と、水と大地と空気と、たまたまそこに居合わせる虫や植物と、そしてこの世を統べる神だけである。
言うなれば神に捧げる演劇。炭火焼肉は神饌とも言える。
それには必要不可欠なのが炭火であるわけで、その火を任されるのは非常に光栄なことと感じていた。
そもそも古来より重要な場面には欠かせない火。
時に仏へ祈りを捧げる護摩を焚き、時に大切な先祖をお迎えする迎え火となり、古くは天照大神に再び光をいただくため、天岩戸の前で辺りを照らした灯。
ひとつ間違えれば私達からすべてを奪うことも出来てしまうその存在に、人々は感謝と畏怖の念を抱き、だからこそいざという場面でそれを用いてきたのではないだろうか。
そして今回。
宇宙論☆講座、団体化の第一歩となる旗揚げ公演。
団体にとって一度しかない重要な公演に火が関わるというのだから、その神聖なものに敬意を払うべきである。そして先人達の想いに私も寄り添い、それに倣いたい。それにはどうすべきか?
便利な世の中となるずっとずっと前。人類の長い歴史の中で、何もない時代から多くの者が行ったであろう方法で炭に火を点けるのが良いのではないか。
私がそのように考えるのも当然の流れとご理解いただけると思う。
そして迎えた本番当日。
公演開催を祝福するような快晴に胸が躍る。
そのうえ、会場付近でなんと
私達の前に他の誰かが火を起こした痕跡にも出会えたのである。ここは火との関係が強い場所なのかもしれない。
なんだか背中を押された気持ちで、私は早速火おこしへと取り掛かった。
(画像は今回の主演のお二方。お肉様はクーラーの効いた別室で待機)
先にも書いたように私は今回、出来るだけ古くからのやり方で火を点けたいと考えた。
その方法として真っ先に思い浮かんだのは、木の棒と木の板をこすり合わせるそれである。早速現地で道具を調達し、着火に取り掛かった。
点く気せんなぁ…
30分時間を費やしたが、木片はまったく変化を見せない。
途方に暮れた私に、宇宙論☆講座新メンバーである ぺけ が言った。
「火打石ならいけるんじゃない?」
それじゃん。
江戸の頃には厄除けなどの意味を込めて、火打石からの火花で家人を送り出したとも聞く。
早速私は現地で道具を調達し、再度着火に取り掛かった。
いや無理。
そもそも火花なんか出ねー。出るわけねー。
先ほどから必死の作業にも関わらず、目当ての物は姿を見せてくれない。
焦りからか額や背中を汗がつたってゆく。いや、これは暑さのせいか?
懸命な姿を太陽に笑われている気がした。
太陽め…
はっ!いや、むしろ太陽は私の味方だ!
学生時代習ったではないか、レンズで作った焦点を当てると黒いものは発火するのだ!
そして、私はいつもレンズを身に付けている。これしかない!
角度が悪いのか?
結論、太陽は味方ではなかった。
太陽め…
ここまで上手くいかないとは思わなかった。
なんだか自分の想いが否定されたような気持ちになるが、きっとそんなわけではない。ただ今を生きる私とこれらの方法が合わなかっただけなのだ。
そして神は古来のやり方で起こした火しか認めないわけでもない。
そう、ここで大切にすべきは神へ供える炭火焼肉を確実に準備すること。
目的を見失ってはいけない。大切なのは手段ではなく、しっかりと感謝の食事を用意することなのだ。
本来の目的を思い出し、私は用意していたものを取り出した。
これで無事、火を点けることができる。
いざ。
風!!
そんな吹く?
私の髪がこれだけなびくくらいだから、マッチの繊細な炎など一瞬で消えてしまう。マッチを擦っては消え、擦っては消え、擦っては消え、擦っては消え、擦っては消え、擦っては消え、擦っては消え、擦っては消え、擦っては消え、擦っては消え、擦っては消え、擦っては消え、擦っては消え、擦っては消え、擦っては消え、擦っては消え…
もう…
点いたぁ~~~♥
文明の利器、便利ぃ~~~♥♥♥
なんとか間に合い安堵した開演時間直前。
火力の強さを試すため肉を焼いてみると、なんとも神々しい炭火焼肉が姿を現した。
これだ…
大きな感動に包まれたため、その後の公演内容はあまり覚えていない。
この時私は神と繋がり、トランス状態に陥っていたのかもしれない。
正気が戻ったのは深夜。彼岸に渡った愛しい人に会いにいこうと(そういう台本である)、水に飛び込み川の真ん中でもがいていた時だった。
夜の川、くそ怖ぇっ!!!!!
皆さんも、炭火焼肉はどんどん真似していただきたい。
しかし、夜の川に入ることはおススメしない。
☆おしまい☆
おまけ
散々ソーシャルディスタンスを守っていたのに、炭火焼肉の魅力に抗えず一瞬集まってしまった出演者、楽器隊、スタッフ。
このあとすぐ演出助手からの呼びかけにより即時距離を取ったため、奇跡の一枚。
この距離が奇跡ではなく通常となる日が早く戻りますように。